読書の日記

読書の備忘録です。いろんな本を読みます。ぼちぼちやるので見ていってください。

65.みかづき 森絵都

65.みかづき 森絵都

 

ランキングをつけるのは忍びないが本書は間違いなく、今まで読んだ本の中でno.1のクオリティでした。

 

あまり行かない駅の本屋さんで、本屋大賞2位!塾講師の話!みたいなキャッチコピーで自身が教育関係に携わったこともあり、購入。普段はとても世間に広まっている本は手に取りづらいのだが、少し自分に関わりのある話だったので、買った。

 

大島吾郎という、人物はとても教えることがうまかった。しかし大学まで通えず、小学校の用務員を経て、赤坂千明に見初められ、結婚をし敗戦後の塾業界を創っていく。

 

赤坂千明は自身が受けた尊皇教育から公教育を万歳太郎と揶揄しとても嫌っていた。また公教育も、受験競争を産業と化すことに嫌悪を抱いていた。

 

公教育の足りない部分を補う形で始めた塾は、前進の寺子屋とはうってかわり、いかがわしいもの、怪しいものと受け取られていた。しかし、大島吾郎の生徒への献身が身を結び、知名度は上がっていく。

 

吾郎は塾の規模を広げることをよしとはしなかった。一人ひとりをしっかり見れる限界があるからだ。また、娘たちとの時間をしっかり取れなくなる懸念もあった。

 

対して千明は規模の拡大は周りの私塾や大手への牽制として必要不可欠だと考えていた。千明の圧に屈した吾郎は理事長となり、千明は経営を支える頭脳として機能した。

 

そして、規模が膨れ上がり吾郎が不安を抱いていた時、理事長の座を千明は奪い、めきめきと規模を拡大していった。

 

吾郎と血縁のない娘の蕗子は、母の反対を押し切り、教師となる道を選ぶ。母の発言への疑問と今ある現状でなんとかしたいという思いから教師を選んだ。

 

娘の蘭は千明に似て、直接的な物言いをし幼少期は母の意見に賛同していたが、途中で独立をする。が、それも千明の経営する塾を継ぐために力をつける意図があった。自身にも他人にもストイックで、見た目重視がこれからはうけると踏み、独立したが講師の不貞により、失敗をする。

 

末子の菜々美は自由すぎるほど自由に生きた。長女次女ともに向かう方向は違えど真面目だったために、勉強面では奮わなかった。しかし、受験期に理事長を降ろされた吾郎にいろいろな世界を見せてやる、と言われしっかり高校を卒業し、留学する。のちに蕗子の息子の一郎の手助けをする。

 

最後に蕗子の息子の一郎は教育に携わろうとはしなかった。しかし弁当配達をする中で団地にいる子供達に勉強を教える。そして、その中で自身にできることを考える。そして非営利団体を立ち上げようと考える。菜々美や支援をしてくれるビルのオーナー、また目的は違えど賛同してくれる仲間たちに支えられながら成功を修める。

 

そして、一郎と彼女?の阿里をみて昔の大島吾郎と赤坂千明の影を見る。教育の形は違えど、彼らの中に昔の自分たちと似たようなものを感じたのであった。

 

 

私自身、教育に関して問題意識があって、大島家の一人一人の教育観をストーリーの中でしっかりと見れて自分も色々と考えながら読み進めた。戦後の大島夫妻の作った塾と一郎の作った無償塾は既存のものではないという共通点があり、いつの時代も新しい月がでてくるのを待つもしくはなるのだろう。自身の教育観や指導方法と照らし合わせながら読めるし、ストーリーとしても満足できるものだった。本当に、本書を読めてよかった。